東予市・共立病院内科 科長 鳥越 恵治郎 *1
愛媛大学麻酔学 助教授 新井 達潤 *2
的確な臨床診断に至る第一歩は、症状、検査データ等から、適切な病名をできるだけ多く、迅速に思い出すことである。思い出す病名が少なければ見過ごし、誤診等を招き、またゆっくりと対処していたのでは、多忙な日常診療に対応できない。しかし、人間の記憶能力には自ずと限界があるため、病名を正確に、できるだけ多く、しかも迅速に思い出すことは容易ではない。特に第一線病院や、専門外の診療の場合問題となるところである。
筆者らは、この”適切なる病名思い出し”を市販のマイクロコンピュータを利用してプログラミングしてみた。初心者にも簡単に利用でき、疾患に関する知識の蓄積、保存も可能で、特に第一線病院での日々の診療に直ちに役に立つように配慮した。
筆者らは、診断過程を次のように4つに分けた。
(以下、略)
本システムでは診断精度を向上させるため、ファイル1の臨床所見の項目に点数性を採用した。筆者らの点数性は、(1)重要な所見により多くの点数を与えること、しかし、(2)所見全体の点数の合計は一定(我々の場合30点)に近づくこと、の2原則になる。(2)は病名検索を行うとき重要となり、検索中の所見群がこの点数に近ければ近いほど病名がたしからいということになる。インデックスはファイルの最後尾に付け、この点数計算に用いる。
まず、登録する臨床所見を発現頻度をもとにして、大症状(「大」、50%以上)、中症状(「中」、49-20%)、小症状(「小」、19%以下)の3群に分け、これをファイルに「大」、「中」、「小」の順に登録する。
(以下、略)
検索は登録されたファイル上のデータから、目的に応じて取り出す過程である。はじめに述べた診断の4過程を3種のファイルに対して、以下のように実行する。
このシステムの能力を各種雑誌の症例報告を対象として評価してみた。
表にこのシステムの最も主要部分である過程1.の実行の結果を掲げた。的中の基準は以下の通りである。
その結果、的中率は、82.6%であった。
コンピュータの診断学への応用は、従来より専門的な分野において(神経系疾患1)-3)、黄疸の識別4)、心電図解析5)等)に適用され、一応の成果をおさめている。しかし、primary physicianにも役立つコンピュータプログラムの作成は、膨大なデータ量、データの多様性、探索アルゴリズムの煩雑さ、コストパフォーマンスの低さ等により皆無といってより。また、多変量解析における診断精度の限界が85%6)であるということも、コンピュータ導入を躊躇させている要因のひとつである。専門家が、その専門の疾患を診断するにあたって楽にコンピュータを凌ぐ正診率を示すからである。筆者らはこのような背景の中で、コンピュータに診断のすべてをまかせるのではなく、病名を思い出す補助として利用してみた。
コンピュータによる診断の論理的背景は、簡単にいえば標本照合であり、それを実行するためのアルゴリズムには、一般に次の4つがあげられる。
筆者らはこのうちプログラミングに容易さ、および「病名を思い出すこと」という主目的のため、総あたり接近法を採用した。結果は表に示した通りで、探索された症例が82.6%あった。このことは、前述の診断率の限界が85%であることと比較して、本プログラムの有用姓を裏づけていると考えられる。
誤診例のうち、コンピュータにあらかじめ病名が記憶されていなかったために、疾患の探索が不可能であった症例が全部で27例(8.3%)あった。これは、診断学にコンピュータを導入することにおいて、不可避の問題である。できるだて多くの病名をあらかじめ記憶させておくほかに解決法はない。
筆者らは現在428種類の疾患データを登録しているが、症例実験から、内科系だけで約500種類程度必要でないかと考えている。
(以下、略)